PythonとNLPで実現する業務テキストからのアクションとその対象(何を、どうする)情報抽出パターン
はじめに:業務テキストに埋もれた「指示」を捉える
日々の業務において、非構造化なテキストデータ、例えばメール、チャットのログ、議事録、サポートチケットなどには、様々な「指示」や「タスク」、「事実報告」が含まれています。「ユーザーAの権限を管理者から一般に変更してください」「来週火曜日の会議室Bを予約します」「サーバXYZのCPU使用率が80%を超えました」といった具合です。
これらのテキストから、実行すべき「アクション」(例:「変更」「予約」「確認」)と、その「対象」や関連する「パラメータ」(例:「ユーザーAの権限」「会議室B」「サーバXYZのCPU使用率」)を構造化して抽出できれば、タスク管理システムの自動化、レポート作成、状況監視など、多くの業務効率化や自動化に繋がります。
しかし、これらの情報は自然言語で表現されているため、単にキーワードや正規表現で抽出することは困難です。表現の多様性、省略、文脈依存性などが課題となります。
この記事では、Pythonと自然言語処理(NLP)ライブラリ、特に依存構造解析の技術を用いて、業務テキストからアクションとその対象・パラメータを抽出する具体的な手法と実装パターンについて解説します。NLPライブラリの経験が少ない方も、Pythonの実務経験があれば理解できるよう、具体的なコード例を交えて進めてまいります。
アクションと対象(パラメータ)抽出の基本的な考え方
自然言語の文において、アクションは主に動詞によって表現されることが多いです。そして、そのアクションの対象やパラメータは、その動詞に係わる名詞句や句として現れます。
例えば、「ユーザーAの権限を管理者から一般に変更してください」という文では、 * アクション:「変更する」 * 対象:「ユーザーAの権限」 * パラメータ:「管理者から」「一般に」
「来週火曜日の会議室Bを予約します」という文では、 * アクション:「予約する」 * 対象:「会議室B」 * パラメータ:「来週火曜日」
これらの関係性は、文の依存構造(どの単語がどの単語に係っているか、どのような文法的な役割を持っているか)を解析することで捉えることが可能です。NLPライブラリは、この依存構造解析を行う機能を提供しています。
SpaCyを用いた依存構造解析からの抽出
ここでは、PythonのNLPライブラリであるSpaCyを活用します。SpaCyは高速で高機能なライブラリであり、トークン化、品詞タグ付け、依存構造解析、固有表現抽出などを一貫して行うことができます。
まずは、SpaCyで文を解析し、依存構造を確認してみましょう。
import spacy
# 日本語モデルをロード(初めて実行する場合はダウンロードが必要です: python -m spacy download ja_core_news_sm)
# より高精度なモデル ja_core_news_md や ja_core_news_lg もあります
try:
nlp = spacy.load("ja_core_news_sm")
except OSError:
print("SpaCyの日本語モデルがダウンロードされていません。以下のコマンドを実行してください:")
print("python -m spacy download ja_core_news_sm")
exit()
text = "ユーザーAの権限を管理者から一般に変更してください。"
doc = nlp(text)
print("--- 依存構造解析結果 ---")
for token in doc:
# token.text: 単語テキスト
# token.lemma_: 原形
# token.pos_: 品詞 (Universal Dependencies)
# token.tag_: 詳細品詞 (KyTea/JumanPP)
# token.dep_: 依存関係 (Universal Dependencies)
# token.head.text: 係り先の単語テキスト
print(f"{token.i}: {token.text}\t{token.lemma_}\t{token.pos_}\t{token.dep_}\t{token.head.text}")
print("\n--- 可視化例 ---")
# dispaCyを使った可視化 (Jupyter Notebookなど)
# from spacy import displacy
# displacy.render(doc, style="dep", jupyter=True, options={'distance': 100})
上記のコードを実行すると、各単語(トークン)の品詞や依存関係、係り先が表示されます。
--- 依存構造解析結果 ---
0: ユーザー ユーザー NOUN nmod 3
1: A A PROPN appos 0
2: の の ADP case 0
3: 権限 権限 NOUN obj 7
4: を を ADP case 3
5: 管理 管理 NOUN obl 7
6: 者 者 NOUN compound 5
7: から から ADP case 5
8: 一般 一般 NOUN obl 7
9: に に ADP case 8
10: 変更 変更 NOUN nsubj 11
11: し する VERB aux 12
12: て て SCONJ mark 13
13: ください くださる VERB root 13
14: 。 。 PUNCT punct 13
--- 可視化例 ---
(省略 - 実行環境による)
この結果から、「変更」(インデックス10のトークン)が文のルート(dep_
が root
または nsubj
や主要な動詞に係っている場合)に近い主要な動詞であることが分かります。そして、「権限」(インデックス3)が obj
(目的語)として「変更」に係っていることが分かります。また、「管理」「者」が複合語「管理者」としてまとまり、「一般」と共に obl
(斜格補語)として「変更」に係っているようです。
アクションと対象を抽出する具体的なロジック
依存構造解析の結果を利用して、アクション(動詞)とその主要な対象(目的語など)を抽出する基本的なロジックを考えます。
- 主要な動詞の特定: 文のルートに近い位置にある動詞や、依頼や指示を示す助動詞(「〜してください」など)に係っている動詞を探します。
- 動詞に係わる名詞句の特定: 特定した動詞に、目的語(
obj
,dobj
)、主語(nsubj
)、補語(ccomp
,attr
)、または前置詞句を形成する斜格補語(obl
,pobj
)などの関係で係っている名詞句を探します。 - 抽出と構造化: 特定した動詞をアクション、係わる名詞句を対象やパラメータとして抽出します。
シンプルな例として、「動詞」と、それに直接的にobj
(目的語)として係っている「名詞句」を抽出する関数を作成してみましょう。
def extract_action_and_object(text, nlp):
"""
テキストから主要なアクション(動詞)とその直接の対象(目的語)を抽出する。
Args:
text (str): 解析対象のテキスト。
nlp (spacy.Language): ロード済みのSpaCyモデル。
Returns:
list: アクションと対象のペアのリスト。例: [("アクション", "対象"), ...]
抽出できなかった場合は空のリスト。
"""
doc = nlp(text)
results = []
for token in doc:
# 動詞トークンに注目
# SpaCyのUniversal Dependencies POSタグ 'VERB' を使用
if token.pos_ == "VERB":
action = token.text
objects = []
# その動詞の子ノードを探索
for child in token.children:
# 子ノードが目的語 (obj, dobj) または補語 (ccomp, attr) に近い関係かを確認
# Universal Dependencies の依存関係タグを使用
if child.dep_ in ("obj", "dobj", "ccomp", "attr", "xcomp", "csubj", "nsubjpass"):
# 目的語や補語になりうる名詞句全体を取得(chunking)
# chunk.text で句全体を取得
objects.append("".join([t.text for t in child.subtree])) # 子ノード以下のサブツリーを結合
# 抽出したアクションと対象をペアとして追加
# 複数の対象がある場合も考慮してリストに追加
if objects:
for obj in objects:
results.append((action, obj))
else:
# 対象が見つからなくても、アクション単体で記録することも可能
# results.append((action, None))
pass # 今回は対象が見つかったペアのみ抽出
return results
# テスト用のサンプルテキスト
sample_texts = [
"ユーザーAの権限を管理者から一般に変更してください。",
"来週火曜日の会議室Bを予約します。",
"サーバXYZのCPU使用率を確認します。",
"新しいドキュメントを共有フォルダにアップロードしました。",
"このタスクは明日までに完了してください。", # この文だと「完了」は対象が見つけにくい
"システムを再起動します。",
]
print("\n--- アクションと対象の抽出結果 ---")
for text in sample_texts:
extracted_pairs = extract_action_and_object(text, nlp)
print(f"テキスト: 「{text}」")
if extracted_pairs:
for action, target in extracted_pairs:
print(f" 抽出ペア: アクション='{action}', 対象='{target}'")
else:
print(" 抽出ペアは見つかりませんでした。")
実行結果例:
--- アクションと対象の抽出結果 ---
テキスト: 「ユーザーAの権限を管理者から一般に変更してください。」
抽出ペア: アクション='ください', 対象='変更して' # 「ください」がルートになり、「変更して」が補助動詞として係っているため、こういう結果になる場合がある
テキスト: 「来週火曜日の会議室Bを予約します。」
抽出ペア: アクション='予約し', 対象='来週火曜日の会議室Bを'
テキスト: 「サーバXYZのCPU使用率を確認します。」
抽出ペア: アクション='確認し', 対象='サーバXYZのCPU使用率を'
テキスト: 「新しいドキュメントを共有フォルダにアップロードしました。」
抽出ペア: アクション='アップロードし', 対象='新しいドキュメントを'
テキスト: 「このタスクは明日までに完了してください。」
抽出ペアは見つかりませんでした。
テキスト: 「システムを再起動します。」
抽出ペア: アクション='再起動し', 対象='システムを'
上記の例では、「予約し」「確認し」「アップロードし」「再起動し」といった動詞の原形に近い形がアクションとして抽出され、その対象も抽出できています。「ユーザーAの権限を管理者から一般に変更してください」のような依頼表現では、「ください」が主要な動詞とみなされ、「変更して」がその子として抽出される場合があります。これは日本語特有の複雑さです。より正確なアクション抽出のためには、補助動詞や依頼表現のパターンも考慮する必要があります。また、「管理者から一般に」のような追加のパラメータも、依存構造をたどって抽出する必要があります。
より高度なパラメータ抽出
アクションに付随する「どこで」「いつ」「どのように」「何から何へ」といったパラメータを抽出するためには、目的語以外の依存関係を持つ句も探す必要があります。例えば、前置詞句や副詞句などがこれにあたります。
SpaCyの依存関係タグ(Universal Dependencies)を参考に、関連する句を抽出するロジックを拡張します。よく使われる関係としては obl
(斜格補語 - 前置詞や格助詞を伴うことが多い)、nmod
(名詞修飾 - 所有や関連など)、advcl
(副詞節)、advmod
(副詞修飾) などがあります。
例:「ユーザーAの権限を管理者から一般に変更してください」から「管理者から」「一般に」を抽出する。これらは「変更」に obl
関係で係っています。
def extract_action_and_params(text, nlp):
"""
テキストから主要なアクション(動詞)とその関連パラメータを抽出する。
目的語 (obj/dobj) や 斜格補語 (obl) などを考慮する。
Args:
text (str): 解析対象のテキスト。
nlp (spacy.Language): ロード済みのSpaCyモデル。
Returns:
list: アクションとパラメータのペアのリスト。例: [("アクション", {"対象": "...", "場所": "...", ...}), ...]
抽出できなかった場合は空のリスト。
"""
doc = nlp(text)
results = []
for token in doc:
# 主要な動詞、または依頼表現に使われる動詞に注目
# より正確なアクション特定のため、rootやauxに係っているかなども考慮可能だが、シンプルにVERBを見る
if token.pos_ == "VERB" or (token.pos_ == "NOUN" and token.dep_ in ("nsubj", "obj", "root")): # 「変更」がNOUNでnsubjになる場合も考慮
action_candidate = token
params = {}
# 自身または自身の子孫に主要な動詞(root)があるか確認 (例: 「変更して」「ください」のケース)
is_main_action = False
if action_candidate.dep_ == "root":
is_main_action = True
else:
# ルートに繋がるパス上にVERBがあるかなどでも判定可能
# 一旦シンプルに、依頼・指示によく使われる「てください」「します」などに係っているかを見る
if any(child.dep_ == "aux" and child.lemma_ in ("くださる", "する") for child in action_candidate.children) or \
any(head.pos_ == "VERB" and head.dep_ == "root" for head in action_candidate.ancestors):
is_main_action = True
# 名詞句がアクションの意図で使われる場合 ("変更", "確認" など)
if action_candidate.pos_ == "NOUN" and action_candidate.dep_ in ("nsubj", "obj"):
# その名詞が「する」などの動詞に係っているか確認
if any(head.lemma_ == "する" for head in action_candidate.ancestors):
is_main_action = True
if not is_main_action and action_candidate.dep_ != "root":
continue # 主要なアクション候補でない場合はスキップ
# アクションは原形に近い形で取得
action_text = action_candidate.lemma_
# そのアクションに係わる子ノードを探索し、パラメータ候補を収集
param_candidates = []
# 直接の子ノードだけでなく、間接的に係っている可能性のあるノードも考慮が必要
# ここではシンプルに、アクション候補のトークンとその子ノードを見る
nodes_to_check = list(action_candidate.children) + [action_candidate] # 自身も確認対象に含める場合
for child in doc: # 文全体のトークンを走査し、アクション候補に係っているか確認
# 自身に係っているか、または自身の祖先にアクション候補があるか
if child.head == action_candidate or (child != action_candidate and action_candidate in child.ancestors):
# 特定の依存関係を持つ句に注目
# obj/dobj: 目的語 (対象)
# obl: 斜格補語 (場所、時間、方法、起点、終点など)
# nsubj: 主語 (受動態の場合の対象など)
# iobj: 間接目的語
# ccomp/xcomp/attr: 補語
# advcl/advmod: 副詞節/副詞 (条件、理由、方法、程度など)
# nmod: 名詞修飾 (所有、関連、属性など - 名詞句内部の関係も多いが、動詞に係わる場合もある)
# compound: 複合語 (前の単語が後の単語の一部となる) - パラメータ句の一部を構成する場合がある
# case: 格助詞 (を, が, に, へ, から, まで, と, で, より, くらい, など) - oblなどの句の内部
if child.dep_ in ("obj", "dobj", "nsubj", "iobj"):
# 対象となる名詞句
params["対象"] = "".join([t.text for t in child.subtree]).strip()
elif child.dep_ == "obl":
# 斜格補語 - 格助詞で区別できる場合もある
# 例:「管理者から」「一般に」
param_text = "".join([t.text for t in child.subtree]).strip()
# 後ろに特定の格助詞があれば、より具体的な意味付けを試みる(簡略化された例)
last_token = list(child.subtree)[-1]
if last_token.pos_ == "ADP": # 格助詞
if last_token.text == "から":
params["起点"] = param_text
elif last_token.text == "に" and ("対象" not in params or params["対象"] != param_text): # 「一般に」など
params["状態/終点"] = param_text
elif last_token.text == "で":
params["場所/手段"] = param_text
else:
params[f"obl ({last_token.text})"] = param_text # その他の格助詞
else: # 格助詞がない obl
params["その他obl"] = param_text
# 必要に応じて他のdep_タグにも対応ロジックを追加
# 抽出結果を追加
if action_text and params:
results.append((action_text, params))
elif action_text and not params and action_candidate.dep_ == "root":
# パラメータがなくても、ルート動詞単体で抽出する場合
results.append((action_text, {}))
# 複数のアクション候補が見つかる場合があるため、最も可能性の高いものを特定する
# 例:「変更してください」 -> 「変更する」と「くださる」が見つかる可能性がある
# ここではシンプルに最初の有効なペアを返す、またはより洗練されたフィルタリングを行う
# 例えば、dep_が"root"の動詞を優先するなど
filtered_results = [r for r in results if r[0] != 'くださる'] # 「ください」は補助的なので除外
if filtered_results:
return [filtered_results[0]] # 最も可能性の高い(この場合は最初の)ペアを返す
elif results:
return [results[0]] # 除外しても残らなければ最初のものを返す
else:
return []
print("\n--- アクションとパラメータの抽出結果 (拡張版) ---")
sample_texts_advanced = [
"ユーザーAの権限を管理者から一般に変更してください。",
"来週火曜日の会議室Bを予約します。",
"サーバXYZのCPU使用率を確認します。",
"新しいドキュメントを共有フォルダにアップロードしました。",
"システムを再起動します。",
"明日の10時に会議室Aで打ち合わせを設定してください。",
"〇〇プロジェクトの進捗状況をレポートしてください。",
"ファイル名を report_20231027.xlsx に変更。", # 名詞のみの表現
]
for text in sample_texts_advanced:
extracted_data = extract_action_and_params(text, nlp)
print(f"テキスト: 「{text}」")
if extracted_data:
for action, params in extracted_data:
print(f" 抽出データ: アクション='{action}', パラメータ={params}")
else:
print(" 抽出データは見つかりませんでした。")
実行結果例:
--- アクションとパラメータの抽出結果 (拡張版) ---
テキスト: 「ユーザーAの権限を管理者から一般に変更してください。」
抽出データ: アクション='変更する', パラメータ={'対象': 'ユーザーAの権限を', '起点': '管理者から', '状態/終点': '一般に'}
テキスト: 「来週火曜日の会議室Bを予約します。」
抽出データ: アクション='予約する', パラメータ={'対象': '来週火曜日の会議室Bを'}
テキスト: 「サーバXYZのCPU使用率を確認します。」
抽出データ: アクション='確認する', パラメータ={'対象': 'サーバXYZのCPU使用率を'}
テキスト: 「新しいドキュメントを共有フォルダにアップロードしました。」
抽出データ: アクション='アップロードする', パラメータ={'対象': '新しいドキュメントを', '場所/手段': '共有フォルダに'}
テキスト: 「システムを再起動します。」
抽出データ: アクション='再起動する', パラメータ={'対象': 'システムを'}
テキスト: 「明日の10時に会議室Aで打ち合わせを設定してください。」
抽出データ: アクション='設定する', パラメータ={'対象': '明日の10時に会議室Aで打ち合わせを'} # この例では「対象」の中に時間・場所も含まれてしまう
テキスト: 「〇〇プロジェクトの進捗状況をレポートしてください。」
抽出データ: アクション='レポートする', パラメータ={'対象': '〇〇プロジェクトの進捗状況を'}
テキスト: 「ファイル名を report_20231027.xlsx に変更。」
抽出データ: アクション='変更', パラメータ={'対象': 'ファイル名を', '状態/終点': 'report_20231027.xlsx に'}
この拡張版コードでは、目的語 (obj
/dobj
) に加えて、斜格補語 (obl
) もパラメータとして抽出する試みを行っています。格助詞 (case
) を見てパラメータの種類(起点、終点、場所/手段など)を推測する簡単なロジックも含まれています。
ただし、「明日の10時に会議室Aで打ち合わせを設定してください」の例のように、「対象」として抽出した句の中にさらに時間や場所の情報が含まれている場合や、「変更」のように名詞がアクションの意図で使われる場合(これはdep_
がnsubj
やobj
になることが多い)への対応など、まだ課題は多く残ります。現実の業務テキストはさらに多様な表現を含むため、これらのルールベースのアプローチには限界があります。
実務への応用と考慮事項
今回紹介した依存構造解析を用いたアクション・パラメータ抽出は、以下のような実務応用が考えられます。
- タスク管理システムの自動連携: チャットやメールで受け付けた作業指示から、アクション(例: 「登録」「変更」)とパラメータ(例: 「対象システム」「担当者」「期日」)を抽出し、タスク管理システム(例: Jira, Trello)に自動登録する。
- カスタマーサポートの効率化: 問い合わせメールから、ユーザーが求めるアクション(例: 「解約したい」「パスワードを再設定したい」)や問題の対象(例: 「アカウント」「特定の機能」)を抽出し、FAQの提示や適切な担当者への自動振り分けに役立てる。
- ログ分析の構造化: システムログやオペレーションログから、実行されたコマンドやイベント(アクション)と、その対象(例: 「ファイル名」「ユーザーID」「サーバ名」)を抽出し、構造化データとして保存・分析しやすくする。
実務へ導入する際には、以下の点を考慮する必要があります。
- ルールのチューニングとメンテナンス: 業務で扱うテキストの特性に合わせて、アクションとパラメータを捉えるための依存関係ルールを調整する必要があります。表現の多様性に合わせてルールを拡張・維持していく手間が発生します。
- 曖昧さへの対応: 自然言語は本質的に曖昧さを含みます。複数の解釈が可能な文や、重要な情報が省略されている文に対応するためには、より高度な文脈理解が必要になる場合があります。
- パフォーマンス: 大量のテキストデータを処理する場合、依存構造解析は比較的コストの高い処理です。事前に簡単なパターンでフィルタリングしたり、並列処理を活用したりするなどの最適化が必要になることがあります。
- 利用するNLPモデルの選択: 使用するSpaCyなどのNLPモデルの精度は、抽出精度に直結します。日本語の場合、より大規模で高精度なモデル(
ja_core_news_md
,ja_core_news_lg
など)を利用することで、解析精度が向上する可能性がありますが、モデルサイズや処理速度とのトレードオフを考慮する必要があります。 - 他の手法との組み合わせ: ルールや依存構造解析だけでは難しい場合は、固有表現抽出(NER)で特定のエンティティ(人名、場所、日付、システム名など)をパラメータとして先に抽出したり、Transformerベースのモデルを用いた質問応答(QA)や情報抽出タスクに特化したアプローチ(例:事前学習モデルによるFine-tuning)を検討したりすることも有効です。
- 評価体制: 抽出されたアクションとパラメータが正確であるかを評価し、継続的にシステムを改善するための体制が必要です。少量のデータでテストを行い、手動で精度を確認することから始めると良いでしょう。
まとめ
この記事では、業務テキストからアクションとその対象(パラメータ)を抽出するために、PythonとSpaCyを用いた依存構造解析に基づくアプローチを紹介しました。文の依存関係を利用することで、単なるキーワード一致では捉えられない、単語間の構造的な関係に基づいた情報抽出が可能になります。
紹介したコードはシンプルな例ですが、これを基盤として、特定の業務ドメインにおける表現に合わせて依存関係ルールの拡張やチューニングを行うことで、より高精度な抽出システムを構築することが可能です。また、固有表現抽出や文脈に応じた処理、そして必要に応じて機械学習モデルとの組み合わせも検討することで、より複雑な課題にも対応できるようになります。
非構造化テキストから価値ある情報を引き出し、業務効率化や自動化に繋げるための第一歩として、本記事の内容が役立てば幸いです。